最近、ハラスメント関連のニュースが話題になることが増えてきましたね。職場などでは、「上司」「部下」など立場の上下関係が発生し、対等な人間関係を築くことが難しいことから、万が一、ハラスメントをされた場合、声をあげにくく、泣き寝入りせざるを得ないことなどの「組織の構造の問題」が指摘されています。
そんな中、「起業家」という新しいチャレンジをする人に向けたセクシュアルハラスメントに関する調査研究(Sexual harassment by multiple stakeholders in entrepreneurship: The case of Japan)を行ったアイリーニ・マネジメント・スクールの柏野尊徳さんに、研究についてお伺いしました。まずは、研究内容から見てみましょう!
「日本における起業家に対する関係者からのセクハラ調査」
※論文では「セクシュアルハラスメント」という単語を利用されているので、ピルにゃん上では「セクハラ」と表記しています。しかし、調査の内容を見ると、日本語の持つ意味の「セクハラ」だけではなく、同意のない性的接触など日本国内で刑法に抵触する事例に含まれているため、「性加害」という表現も一部併記しています。
起業家へのセクハラ・性加害について、数字で捉えてみましょう
過去1年間にセクハラを経験した人はどのくらい?
なんと、女性起業家52.4%、男性起業家15%が経験!
男性起業家もセクハラ被害にさらされていることが明らかになりましたが、起業家の属性別に分析してみると「性別」が最もセクハラ被害の発生に強く影響していることが分かりました。
①加害者はどんな関係性の人が多いの?
投資家が全体の43.2%で最多、続いて顧客(33.3%)、メンター(24.7%)、起業支援団体のメンバー(23.5%)が挙げられています。
②どんな被害を受けた人が多いの?
「不適切な発言・質問」が最も多く56.8%、次いで「避けられない状況での不快な行動」(42.0%)、「不適切な身体接触」(30.9%)が続きます。また、「取引条件としての性的要求」27.2%も高い割合で発生しています。
③被害を誰かに話したり、報告した割合は?
セクハラを報告した人はわずか14.8%。
報告しなかった人の理由は、「報告しても改善されないと思った」(47.8%)、「報告するほど重大ではないと思った」(49.3%)といった理由で多くの人が報告を控えています。その他には、「どこに報告したらいいかわからない」「問題を大きくたくない」「事件が噂になるのを心配」「報告する時間もエネルギーもなかった」などの理由なども挙げられています。

もともと、セクハラや性犯罪は被害を相談しづらいと言われているけど、やっぱり、仕事の利害が関わって権力勾配の差があるから、より、問題が難しくなっているんだね!
起業家の人は、セクハラが起きる構造的問題をどう捉えているの?
セクハラ・性加害の具体的な体験談

具体的なエピソードはかなり、衝撃的な話も多い!たくさんの事例を紹介するから是非、読んでみてね。
■根深い差別
ジェンダーステレオタイプ
- 「女性は結婚・出産後も働きたいのか?」「うちの妻は働いていない。彼女と違う女性は想像できない」と言われました。
- 「妊娠しているなら会社をたたんだら?」「育児と事業の両立は大変だから、投資額を返してほしい」など、妊娠を理由に不当な発言や侮辱的な発言を受けた。
- 「あなたにとって営業は楽なはずだ。結局のところ、あなたが女性だからその取引ができただけだ」と言われました。彼らは、女性の成功は性的魅力を利用した結果だと考えています。
(古い)役割の期待
- 母親は家を出るべきではなく、家庭を守るべきだという信念に基づいて叱責されました。
- 大企業の CEO や上級管理職を含む多くの人は、女性起業家が男性顧客を喜ばせる伝統的な日本のホステスのように振舞うことを期待しています。
■組織的・構造的搾取
強制的な影響力
- 資金があることを理由に、投資対象者に個人的な要求をし、その要求が満たされない限り投資しないと言う。
- 投資家から性行為を強要され、同意なく撮影された。
略奪的支援
- 投資家からアプローチを受け、会社を設立しました。しかし、投資家は望まないアプローチをし始めました。
- 時々、ビジネスに関するアドバイスを求めているときに、金銭的な支援と引き換えに定期的な性的関係を持つよう不適切に勧められることがあります。
曖昧になる専門分野の境界線
- 起業支援団体の会員から、新しいビジネスパートナーと出会えるチャンスがあると聞いたが、実はお見合いパーティーだった。
- 彼は私の年齢や人間関係など個人的な質問をしてきました。私は夕食に招待され、家まで車で送ってもらうよう申し出られました(メンタリングセッション中)。
■セーフガードの欠落
不十分な教育
- 個人や中小企業の経営者は、ハラスメントについて知る機会がないため、自分の行動に気づかないことが多い。
- 地方のスタートアップ支援コミュニティではジェンダー問題やコンプライアンスに対する意識が低いと感じています。
報告システムの欠如
- 声を上げることによる結果が怖いです。直接的な危害だけではなく、「扱いにくい」と思われたり、仲間外れにされたりするのではないかと心配しています。
- 相談できる場所があると良いと思います。
不十分な保護
- 今後の付き合いが不安で相談しづらくなる。実際に打ち合わせがキャンセルになったケースもある。
- 加害者の地位が高いため、私はこの事件を報告できませんでした。
■不本意な選択を迫られる
諦めて耐える
- 今でもトラウマになっています。
- それは偶然に起こったことだと思っていました。(偶発的で仕方ないと思うようにしている)
対応に高い代償が生じる
- 将来的に彼らとビジネスをしたいと思っていたが、セクハラを受けて断念した。
- 個人的には、訴訟費用や取引停止などの高額なコストが、スタートアップに大きなダメージをもたらすことが多いことを懸念しています。
起業家キャリアの断絶、コミュニティからの退場
- ある投資家からの望まないアプローチをすべて断ったところ、彼は自分の立場を悪用して報復し、最終的に私は CEO の職を解かれ、辞職を余儀なくされました。このすべては、この 6 か月以内に起こったことです
被害後の影響について
セクハラ・性加害の被害者は精神的苦痛(63%)だけでなく、自信の低下(30.9%)、仕事への意欲の低下(27.2%)、事業の停止または撤退(14.8%)など、様々なところに望まない影響がでています。

被害後の影響は、直接的な精神的苦痛だけでなく、長期にわたってあらゆる困難を伴うんだね。また、声を上げかられなかったことで、加害者側の仕事には変化がなく、被害者側の仕事は事業の撤退などを迫られるという結果になってしまうことは、とても深刻です。社会の構造的問題として捉えていかないといけないね!
著者へのインタビュー
Q)今回の研究は、起業家やベンチャー研究の分野で国際的に有名な学術誌に掲載されたみたいですね!この研究の学術的な価値はどこにあるのでしょうか?
職場に関するハラスメント調査は、先行研究がたくさんあるのですが、「起業家」へのハラスメントの調査データは実は珍しく、またアジアでのデータというところに研究の価値を感じていただけたみたいです。
Q)この論文を読んで、いろいろと気づかされることが多かったです。最後に読者の皆さんに、メッセージをお願いします!
今回の研究は、立場の弱い関係者が直面しているセクシュアル・ハラスメントの状況を可視化した、課題解決に向けた重要な一歩です。近年、性被害への社会的関心は高まりつつありますが、実効性のある対策はまだ十分ではありません。こうした根深い問題を解決しなければ、日本の環境が真に持続可能で誰もが活躍できる場となることは難しいでしょう。
なお、本論文を誰もが自由に閲覧できるようオープンアクセス費用のために、現在クラウドファンディングを実施しています。多くの方々に知見を共有することで、実務家や政策立案者による具体的な行動を促し、セクハラ被害の未然防止を広げたいと考えています。セクハラ・ゼロの環境を目指すため、一緒に前進していきましょう。
現在、この論文を読みたいと思った場合、購読料を支払う必要があります。
この論文を世界中の研究者・実務家・政策担当者が購読料を支払わず無料で自由にアクセスできる状態にするには、約50万円のオープンアクセス費用を出版社に支払う必要があります。広く問題提起をするために、クラファンを行っています。
【支援のメリット】
研究結果が国際的に無料公開されることで、起業支援者・投資家・政策立案者など多くのステークホルダーへ知見を広め、具体的なセクハラ防止策の議論を加速させることができます。 例えば、比較研究や教育カリキュラムへの展開など、環境を改善するための多角的な連携促進です。
以下のURLから、アクセス可能です。
最初に英語の文章が記載してありますが、ページをスクロールすると日本語訳が併記されています。
https://www.indiegogo.com/projects/open-access-startup-sexual-harassment-study#/
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日本の起業環境における性被害・セクハラの実態やその影響を知るため
197人の起業家に向けたオンラインアンケート(2024年)
197人中、105人が女性起業家の回答です。
※この調査は、非確率抽出法(便宜抽出法とスノーボールサンプリングの併用)で選ばれたため、結果がすべての日本の起業家に当てはまるわけではありません。また、性被害というデリケートなテーマであるため、回答率が低かったり、自己選択に対しバイアスが影響を及ぼしている可能性もあります。そのため、この調査結果は日本の起業環境における性被害の傾向を示す第一歩と捉えてください。